大和の「つくりもの」 2 東長柄「天神祭」の「立山」
2008年7月25日
子どもの頃の夏の夕、町々に設えた「つくりもの」を廻って見るのが楽しみでした。近所では竹生(たきょう)通りの北の端にお店の間口をいっぱいに使った「つくりもの」があり、また駅近くの若宮社の境内にも設けられていました。
旧町内では町ごとに趣向を凝らして競っていたのですから大掛かりでもあり、テレビもまだ十分に普及していない頃では子どもの眼にはそこに繰り広げられた世界がとても珍しいものだったのです。
挙母(ころも)市が豊田市に名称変更した頃に進学でこの故郷を出たのでその後の様子はわからないのですが、この頃からこの行事はどうも衰退していったようで、現在ではまったく行われていませんし思い出す人も少ないようです。これを「てんのうさん」(天王祭?)と呼んでいたいたように思いますが定かではありません。
この「つくりもの」は「やま」を表すかたちのひとつで、「やま」は神を呼び神を迎えると考えられています。「やま」のかたちは沢山ありますが、祭の中では「鉾」「ダンジリ」「山車」「屋台」などが普通に見られます。祭で一町内に一つの「やま」が現われ、「やま」に神を迎えてその町内の安全を願い、祭が終わると「やま」は壊すか解体して隠してしまいます。祭の時だけ「やま」が現われることも大事なことなのです。
(最近に山車などを常設展示してある所がありますが、それでは本来の意味が失われていることになります。)
大和の農村歩きでこの「つくりもの」をしている村が数ヶ所だけあることがわかりました。17日の田原本町・祇園祭もそうだったのですが現在は行われていません。今日25日は御所市の東長柄にある天満宮の天神祭で「つくりもの」を見ることができました。大和ではこれを「立山」と呼んでいます。まさに「やま」を「立てる」ものでさすがに伝統のある大和です。
午前10時に天満宮で神事があり、それからそれまでに準備をしていた人形や細工物などで「立山」の組立や設置にかかります。
「立山」は天満宮近くに3ヶ所作られます。金剛山地の東麓にある東長柄の戸数は46戸、人口137人(2005年)ですからこれだけでもたいへんな作業です。しかし青年会、婦人会が中心となって途絶えることなく続けています。東長柄は林業と農業が中心でしたが、最近では他と同じように若者は都市に出て村は高齢者が多くなりました。そして小学生は6人です。
以前戸数が倍近くあった時には「立山」は村内7ヶ所につくられていたそうです。今は天満宮横、天満宮前の東長柄公民館内、天満宮境内で、午後3時頃には飾り付けは終わります。
天満宮横の道端には婦人会が制作した子ども向けの「アンパンマンとそのなかまたち」です。発泡スチロールなどでこころを込めて丁寧につくられた人形たちに私もほのぼのとしてきて見とれました。
「立山」を展示できるように設計されている公民館に創られたのは「道頓堀名物」です。道頓堀にある「くいだおれ太郎」「グリコのネオン」「かに道楽・東長柄支店」「づぼらやの大看板」、それに記者会見して謝罪する「料亭のおかみ」。話題となった時事を切り取ってこの世相をリアルに見せました。
狭い天満宮の境内には力作の「インディ・ジョーンズ」の場面。青年たちに長老たちが手伝ってつくりあげたものです。ここへは必ず「水」を使うそうで、例年は上から水を落とすそうですが、今年は下から吹き上げるように工夫をこらしてあります。
この天満宮の社殿や拝殿は1858(安政5)年の創建で、拝殿には翌年に奉納された三十六歌仙の懸額などがありますし、境内石造物も同年です。ちょうど大河ドラマの「篤姫」と同時期になります。またここには当屋制度が続いていて、正月前後の行事と、この「立山」のまつりが主な行事で、まつりの時に拝殿近くに置いた「邑中安全」の看板の通り、村の安泰と村人の絆をつなぐ大切な行事となっています。
近隣の村にも響きわたるスピーカーの大音量の歌謡曲が合図となって夕方になると天満宮に人が集まります。車がやっと通れるほどの天満宮への細い道端には13の露店が軒を並べ、子どもたちは「立山」よりもそちらの方がお目当てです。
ほんとうに久しぶりの「つくりもの」に会いました。趣向もよく本格的なもので、取材してみて地域の人々のつながりと昔からの人情が温かく伝わってきます。このご時世ですからこれからの継承も困難が予想されます。長く伝え続けられるような支援を各方面にお願いしたいと思います。
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