繰返された学童の悲劇 (6) 教育塔
1934(昭和9)年9月21日、観測史上最大といえる室戸台風(関西大風水害)の猛威は京阪神を中心に甚大な被害を被りました。なかでも学校の木造校舎のほとんどが倒壊し、学童や教師が多数犠牲となったことは教育界に大きな衝撃を与え、風水害への対策を講じるとともに慰霊の塔を建て、そこに全国殉難教育者をも合祀して慰霊祭を行いました。これが大阪城の大手前広場(衛星写真地図)にある教育塔です。第1回の「教育祭」は帝國教育會が主催して室戸台風から2年後の1936(昭和11)年10月30日に挙行されました。合祀者数は室戸台風殉難者を含めて教職員137名、児童生徒1,435名でした。
この教育塔の正面左右には陶板によるレリーフが掲げられています。右は当時の教育事情を反映した教育勅語奉読の場面、左は大災害時に避難誘導する教師と難渋する学童の姿が描かれています。
このレリーフについて、「浮彫意匠募集」で選ばれた作者の長谷川義起が「教育塔誌」(1937年10月20日帝國教育會発行)で制作意図をこう述べています。
(前略)「熟考の末静と動を表はして見ることにした。静を常時として、動を非常時の気分でゆかうと考へた。愈ゝ静動二相の中に教育者の抱懐する教育盡忠、教育報国の大精神を藝術的に顕現して見よう、而して殉職者の崇高なる英霊を慰めようと思った。」
(中略)「『動』は非常時に於ける教育者が教へ子を背負ひあるひはその手をひいて、恰も守護神の如く暴風雨をものともせず、兒童を誘導しつゝ避難する有様を表はすことに務めた。」(中略)「近景の男女の教師を取り圍み恟々として驅け進むのは低學年の兒童であり、遠景は教師の指導下に勇敢に安全地帶をめざして避難する一群、それは高學年の兒童であり、是等のバランスの必要上躓き倒れたものも表はしたのである、また大雨の感じを盛るため構成的に取扱ひ、冩生風を離脱することに務めた、ここで特に注意した事は、惨鼻目を蔽はしむるやうな卑俗低調に陥らぬやう、藝術的な『リズム』を生かすことに務めた。」
このレリーフの主題には堺市立三宝小学校の悲劇が下敷きとなっていたものと思われます。また男女二人の教師は三宝小学校で殉職した栗山優訓導、錦小学校で殉職した高塚武訓導をイメージされていたのかも知れません。(続く)
シリーズ
繰返された学童の悲劇 (1) 石巻市立大川小学校
繰返された学童の悲劇 (2) 堺市立三宝小学校
繰返された学童の悲劇 (3) 慰霊の碑
繰返された学童の悲劇 (4) 低地の学校
繰返された学童の悲劇 (5) 水難の地
繰返された学童の悲劇 (6) 教育塔
繰返された学童の悲劇 (7) 擁護璽
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